「ミドリムシが地球を救う」というビジョンのもと栄養問題に取り組む東大発バイオテクノロジー企業株式会社ユーグレナ代表取締役社長の出雲充さん。
世界で初めて微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の屋外大量培養に成功、2014年12月には東証一部に上場と活躍を続けています。
そんな出雲さんの活動の始まりは大学時代に参加したアイセックの海外インターンシップだったそうです。
どのようなインターンシップだったのか、どのように現在のご活動に繋がっているのか伺いました。

大学時代に参加した海外インターンシップについて語る出雲さん
始まりは、バングラデシュ。海外インターンシップでグラミンバンクへ
――現在のご活動のスタート地点である栄養問題への関心は、大学時代に参加されたアイセックの海外インターンシップがキッカケだとうかがいました。
大学1年生の夏休みに、バングラデシュへ行き、グラミンバンクでインターンシップに参加しました。
私が行ったのは1998年ですから、今から17年前です。
バングラデシュは南アジアにある国。西・北・東の三方はインド、南東はミャンマーと接している。
――バングラデシュでの海外インターンシップにはどうして行こうと思われたのですか?
高校時代、国連に憧れていて「大学に入って勉強して、将来は国連に就職したい」と思っていました。
特にその中でもUNDP(国連開発計画)というところに行き、途上国の貧しい生活を強いられている方々のために何か力になりたいと考えていました。
将来国連に入るのに一度も海外、特に途上国へ行ったことがないのでは難しいのではと思い、途上国の現場を自分のこの目で見てみたいと思って海外インターンシップ先を探していました。
バングラデシュのグラミンになったのは、ご縁ですね。

出雲さんのインターン先となったグラミンバンク設者ムハマド・ユヌス氏自伝。インタビュー時にご紹介くださった。
※写真はamazon.co.jpのスクリーンショットです。
聞いていた話と違う!バングラデシュの食糧事情
――インターンシップを通して印象的だったことはありますか?
私はバングラデシュで、人生が変わりました。
当時バングラデシュで知られていたことは世界で最も貧しい国の一つだということでした。
人口は1億5千万人、日本より多い。国土面積は北海道の倍くらいしかありません。
人口密度も世界で高い国です。
一方、1日の一人あたりの所得はわずか1ドル(約100円)。
年収で3万円、4万円という水準の国です。
ほとんどの人が、食べ物がなくて、貧しくて、ひもじい思いをしている。
そういう国なのだろうなと思ってバングラデシュへ行きました。
ところが、実際にインターンシップに行くと、聞いていた話と全然違ったんです。
グラミンバンクはバングラデシュに12のセンターがあり、インターンシップではそのセンターをまわったのですが、どこへ行っても1日3回、朝昼晩、必ずカレーが出てきたんです。
しかも、一種類ではなく、何種類ものルーが選べる。
お米はまるでマンガのようなお相撲さんが食べるくらい山盛りに出てくるんです
肉も魚も卵もない?!生活の中で気がついた、食事の問題点
ところが、途中で「おかしいな」と思ったんです。
カレー以外、何もなかったんですよ。カレーの中にもルー以外に他に何も入っていませんでした。
卵も、人参も、玉ねぎも、じゃがいもも、何も入っていません。素のルーだけで具がない。
当然肉も、魚も、野菜も、果物もありません。
どの子供も1年間毎日同じカレーを食べているんですよ。
お肉や野菜、果物や卵を食べるチャンスは1年でほとんどありません。
問題は「飢餓」じゃない。バングラデシュでの気付き
世の中、飢餓で困っている人はほとんどいないんですよ。
問題は飢餓ではないんです。
実は、炭水化物は世界で膨大な量が生産されています。
餓死しそうなほど食べ物が無い状態が起こるのは、干ばつや内戦といった特殊な事情で流通の仕組みが上手く働かなくなった時です。
それよりも問題なのは「栄養失調」です。
栄養失調だから感染症にかかりやすくなります。
病気になってもなかなか治らない。健康でないので集中力がない。
ありとあらゆる健康の問題は栄養失調が原因で起きているということをバングラデシュで知りました。

世界では約7億9500万人、実に9人に1人が栄養不良(http://ja.wfp.org/hunger-jp)
これが、バングラデシュのインターンシップで得た一番の学びと最大の衝撃でした。
「栄養失調」が日常に。連なる課題
――実際に現地の子供たちが栄養失調で体調を崩したり病気になったりしている子が多かったのですか?
そもそも、自分たちが病気で、栄養失調だから具合が悪いという認識がないんですね。
だから、余計子供たちがかわいそうです。
学校の先生や親に「何でちゃんと勉強しないの。集中力がない。もっと真面目に宿題をやりなさい」と言われる。
でも、子供たちも疲れていて体調がすぐれているわけでない。栄養失調の状態なわけですから、勉強に集中できるような状態じゃないんです。
その上、1日3回毎食同じカレーでそれ以外の栄養をなかなか摂取するチャンスが無いので、体調がなかなか良くならない。
ところが、子供たちもそれが常態だと思っていて「体調が悪い」ということを全然言わないんです。
本当に疲れて寝込んでしまっている。
そういう子供たちに「何でちゃんと勉強しないんだ」「もっと元気に運動しなさい」と怒られるのを見るのはショックでした。
「栄養失調」を解決しないと、他の課題も解決されない
――栄養失調が負の連鎖のスタートになってしまっているのですね。
今は色んな人たちが貧困問題解決に取り組もうとしています。
学校教育に取り組む人も、水問題に挑戦する人もいます。
でも、健康じゃないと上手くいかないんです。
健康なときはこういった開発プログラムはうまくいくのですが、病気になったり怪我をしたりすると急にまた貧困に戻ってしまうということが多いんです。
貧困層の人たちは突発的なアクシデントに対応する余裕が全くないんですね。
これが、貧困の一番の特徴です。
人々が健康にならないと本当の意味での貧困から抜けだしたことにはならないんです。
貧困も、いろんな出発点があるのですが、今ある貧困問題にフォーカスを当てるときには栄養失調を解決していく必要がある。
それもグラミンバンクでのインターンシップから学んだことの一つです。
<プロフィール> 出雲 充[いずも みつる]さん 東京大学農学部卒。大学時代に参加したアイセックの海外インターンシップで栄養失調の問題に関心を持ち、微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の研究を始める。 2005年8月株式会社ユーグレナを創業、同社代表取締役社長 同年12月ミドリムシの食用屋外大量培養に世界で初めて成功。 信念は『ミドリムシが地球を救う』。 著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)がある。 株式会社ユーグレナwebサイト:http://www.euglena.jp/
▼出雲充さんインタビュー#2 リーダーシップ編はこちらから▼ 『「ミドリムシが地球を救う」創業者の哲学』 ▼インタビュー動画はこちらから▼ 『海外インターン体験談|アジア バングラデシュ | 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 | 出雲充氏 | 学生団体 NPO法人アイセック・ジャパン』
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